大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和49年(ワ)8378号 判決 1975年12月11日

原告

飯田藤江

被告

日動火災海上保険株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告は原告に対し、金五六三万八、一六〇円およびこれに対する昭和四六年九月二七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  保険契約の締結

原告と被告との間において、自動二輪車(茨ま二八三五、以下本件事故車という)につき自動車損害賠償責任保険(以下自賠責保険という)契約(保険証明書番号〇二一―二五八〇九八号)を締結した。

2  事故の発生

(一) 日時 昭和四六年九月二四日午後六時二〇分頃

(二) 場所 茨城県築波郡谷和原村大字下長沼七九―二先路上

(三) 事故車 本件事故車

(四) 右運転者 訴外飯泉晃(即死)

(五) 被害者 亡飯田一也(昭和四六年九月二六日死亡―以下亡一也という)

(六) 態様 訴外亡飯泉晃は本件事故車の後部座席に被害者を同乗させ同車を運転中、右道路を同一方向に進行中の耕運機に追突して被害者を路上に投げ落し、よつて同人を前記のとおり死亡させた。

3  被告の責任原因

原告は本件事故車を所有し自己のために同車を運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)第三条に基き本件事故によつて生じた損害を賠償する責任があり、従つて被告は自賠法第一六条第一項に基き被害者亡一也の唯一の相続人たる原告に対し、本件事故によつて生じた後記損害を賠償する責任がある。

4  損害

(一) 治療費 金一三万八、一六〇円

(二) 給料として得べかりし利益の喪失による損害 金八四八万二、〇九六円

亡一也の事故前三ケ月の平均収入月額金四万二、九〇〇円であるところ、生活費としてその三〇%を当てるとして、月額実収入金三万〇、〇三五円である。亡一也は当時一七才で、これから三九年間就労可能であるから、その間の総収入をホフマン式方式により現在値を求めれば前記金額となる。

(三) 退職金として得べかりし利益の喪失による損害 金二九一万四、五〇〇円

亡一也が六〇才で停年退職する際得られる賃金八万七、〇〇〇円に会社規定による係数三三・五を乗じた前記金額が亡一也の得べかりし退職金である。

(四) 葬儀費 金二〇万円

(五) 慰藉料 金四〇万円

(六) 弁護士費用 金五〇万円

5  まとめ

よつて原告は被告に対し、第4項記載の損害合計金一、六二三万四、七五六円のうち自賠法施行令第二条記載の金額五一三万八、一六〇円ならびに弁護士費用金五〇万円およびこれらに対する本件損害発生の日の翌日である昭和四六年九月二七日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項は認める。

2  同第2項の(一)ないし(五)は認め、(六)は不知。

3  同第3項のうち、原告が本件事故車を所有し自己のために同車を運行の用に供していた点および原告が亡一也の唯一の相続人である点を認め、その余は争う。

4  同第4項は不知。

三  抗弁

1  亡一也は運行供用者であつて自賠法第三条の「他人」には該当しない。即ち

(一) 原告はその子供である亡一也が東京に出て働きたがつていたのを何とか自分の所に引きとめておくために本件事故車を亡一也に買い与えたものであり、実質的には本件事故車は亡一也の所有である。

(二) 本件事故車はいちいち原告の承諾を得なくとも亡一也が自由に毎日通勤に使用し、又日曜等には自由にドライブ等にも使用していた。

(三) ガソリン代等もすべて亡一也が自分の収入の中から支払つていた。

(四) 原告は運転免許を有せず、一度も本件事故車を運転したこともなく、また本件事故車に同乗したこともない。

2  時効

原告は、本件事故発生日である昭和四六年九月二四日には本件事故の損害および加害者を知つていたから本訴提起までに自賠法第一九条所定の二年以上経過してその損害賠償請求権は時効により消滅している。そこで被告は本件第二回口頭弁論期日で右時効を援用した。

四  抗弁に対する認否

抗弁1、2はいずれも争う。

本件事故車は原告の所有のものであり、本件事故当時本件事故車を運転していたのは訴外亡飯泉晃であり、亡一也は後部荷台に乗つていたもので、運行支配を有していなかつたものであるから自賠法第三条の「他人」に該当する。

仮に亡一也が本件事故車の運行供用者であつたとしても、これは原告との共同運行供用者である。この場合でも亡一也は現実には本件事故当時本件事故車を運転していなかつたものであるから、その車の運行は訴外亡飯泉晃のための運行となるので、亡一也は「他人」となるし、また共同運行供用者といえども被害者になつた場合は他人として保護すべきであり、これが自賠法の立法趣旨にも合致するというべきである。

五  再抗弁

時効の中断

原告は昭和四七年四月本件事故車の運転者訴外亡飯泉晃の相続人であり親権者である飯泉栄三、同恵子を被告として本件事故に関する損害賠償請求事件の本案訴訟を水戸地方裁判所土浦支部に提起した。(同庁昭和四七年(ワ)第五二号)

而して右訴訟は昭和五〇年一月二一日休止満了による訴の取下として終了したが、原告はその間裁判上の請求をしていたことになるので、本訴提起の昭和四九年一〇月四日当時は不真正連帯債務者である被告に対しても時効が完成していないことになる。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁の事実は認めるが時効中断の効果は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因第1項(保険契約の締結)および同第2項(事故の発生)のうち(六)(態様)を除く部分ならびに同第3項(被告の責任原因)のうち原告が本件事故車の運行供用者であることはいずれも当事者間に争いがなく、争いのある第2項(六)については後記二のとおりである。

二  そこで被告は、亡一也が本件事故車の運行供用者であるので自賠法第三条の「他人」に該当しないと主張(抗弁第1項)するから検討する。

〔証拠略〕によれば、

原告は、亡一也が東京に出て働いていたのを諦めさせ、郷里の原告のもとで生活させる代償として昭和四六年七月本件事故車を亡一也に買い与えたが亡一也が当時一七才の未成年でもあり、本件事故車の高額な代金はすべて原告が出費したので本件事故車の名義は原告にしたこと、亡一也は自由に本件事故車を毎日の通勤や日曜日等のドライブに使用していたが、原告の使いで買物や原告の実家への連絡等もやつていたこと、原告は本件事故車の運転免許を持つていないので運転したこともなく、また後部座席に同乗したこともなかつたこと、ガソリン代等の経費は亡一也が自分の給料で支払つていたこと、本件事故当日亡一也は、訴外亡飯泉晃と一緒に取手市内の花火見物に行くため本件事故車を運転して自宅を出発したが、途中で右飯泉と運転を交替し、亡一也が後部座席に同乗して時速一〇〇キロメートル(制限時速六〇キロメートル)で進行中、直線の見通しの良い平旦な舗装道路上で耕運機トレーラーの右端後部に本件事故車を追突させ、亡一也および右飯泉が路上に投げ飛ばされたこと、

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実における本件事故車の保有目的、日常における使用状況および経費の負担、事故当時の運行の目的および態様からして亡一也に本件事故車の運行支配および運行利益があつたことは明らかであるから、亡一也は運行供用者であると言わなければならない。従つて亡一也は運行供用者でないとする原告の主張は理由がない。

次に原告は、亡一也が運行供用者であつても原告ならびに訴外亡飯泉晃とともに共同運行供用者であるから、共同運行供用者といえども被害者になつた場合には「他人」として保護すべきだと主張するので判断するに、原告が本件事故車の運行供用者であることは当事者間に争いがなく、右認定事実によれば右飯泉も花火見物という自己の目的のために本件事故車を運転したものであるから運行供用者と認められる。

当裁判所は自賠法第三条の「他人」とは原則として運行供用者および運転者(運転補助者を含む)以外の者と解するが、共同運行供用者が被害に遭つた場合であつても事故当時の運行が専ら他の共同運行供用者のためにのみ運行され、被害を受けた共同運行供用者は当該運行に直接関与していない等の特別の事情があれば、対外的には運行供用者として賠償責任を負う場合であつても、対内的(共同運行供用者間)には「他人」として保護されると解するのが自賠法の被害者保護の精神に合致するものと認められる。

そこで亡一也が右特別事情があると言えるかにつき検討するに、前記認定のとおり本件事故当時の運行目的は亡一也の花火見物のためでもあり、途中で交替して訴外亡飯泉晃に運転させ自らは後部座席に同乗している運行の態様からすれば当該運行は専ら右飯泉のための運行とは言えず、亡一也も当該運行に直接関与しているものと解されるから亡一也は自賠法第三条の「他人」には該当しない。

三  よつてその余の判断をするまでもなく原告の本訴請求は失当であるので棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条の規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 馬淵勉)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例